01



電話のベルが鳴る。
灰色の手が伸び、電話の受話器を取り言った。

「はい、DEADMANです。」

受話器の向こうの相手は、小声でボソボソと何事か、彼に告げる。

「あーはい、そうですか。わかりました。首吊りですか。
 それで、場所は?あ、はい、わかります。それならすぐ伺います」

傍目から聞いていたら一体、何を想像するだろうか?
きっと、一風変わった会話だと感じるだろう。

警察?医者?それとも、自殺者を確認する家族?
いや違う、彼は、自殺代行者だ。
聞きなれない言葉だが、文字通りの意味だ。依頼してきた相手の誰かの代わりに
その自殺を請け負う者。それが彼だ。
彼は、その代行をすることでお金を貰い生活している。
幸い、彼は不死身だ。
彼は受話器を置くと、服を着ることなく走り出す。
急ぐあまり、ドアに全身をぶつけることなんてよくあることだ。

この前なんて、転んだうえに、車にはねられ、川に落ち、溺れそうになり
依頼人の前に着いた時には、血だらけで、クレームをつけられてしまった。


__________今日は失敗しない。


そう思った瞬間に、玄関のドアに顔面を強打する。
どうやら今日もあまり、ついていないらしい。
彼は、後ろに倒れる。だが、これしきのことで挫けるわけにはいかない。
彼を待っている人がいるのだから。

彼は走る。車を使えたらと思うが、車はこの前ぶつけて、廃車にしたばかりだ。
彼は全力で走っている。何しろ財布すら持ってきていない。
彼は走る。なにやら不穏な気配を感じ、上を見ると、ダンベルが目の前に迫っている。
よける暇もなく、後頭部に直撃する。彼の頭のどこが後頭部かはよくわからないが。

ひるまずに、走る、走る。

しばらく走り続けていると、また何やら彼の頭めがけて、飛んできている。
逆光でよく見えなかったが、近づくにつれて、その輪郭がはっきりとした物に変わる。


__________斧か?


__________当たった。いろんな意味で。


それでも彼はひるまない。走る、走る。
後頭部に大きなコブを作り、側面には斧を突き刺さったまま。
灰色の体は垂れてきた血で赤く染まってきたが、仕方ない。
なにしろ、急いでいるのだから。

30分後、彼は、目的の家に辿り着いた。途中で心臓麻痺で苦しんだのは内緒だ。
息を切らし、インターフォンを押す。
ドアが開き、いかにも内気そうな少年がその隙間から顔を出した。

「いや、どうも、遅れてすみません。」

斧が刺さったままの異様な姿で、彼は言った。
少年は、あっけに取られながらも、余裕の無い声で彼に尋ねた。

「いいえ、それじゃ、お願いします。そういえば料金っておいくらなんですか?
ぼく、あまりお金持っていないんですけど」

その問いに彼は、明るく笑顔で、いつも通りに答える。

「お気持ちで十分ですよ。これは、私の趣味でもありますから」

少年は嬉しそうに笑うと、自分で作ったであろう、首吊り用のロープを
彼に差し出した。



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