02



彼は、食べている。

いや、彼の行動を見るに、貪るといった表現が適切なのかもしれない。
彼の机の上には、とても大きなケーキや、パイ、タルト、チョコレート
クレープ、アイスクリーム、ドーナツ等が無造作に置かれている。

そのほとんどが甘いもので、甘さが控えめなものといったら
ドーナツのオールドファッションくらいなものだ。
それでも甘味には違いない。

そして、飲み物といえば、ジュース類が缶や瓶のまま何本も置かれている。
ほとんどが炭酸飲料であり、中には原液では甘すぎて薄めないと
飲めないようなものもある。

彼は腹を空かせた獣のように、食べ物を貪り、飲み物を流し込む。
備え付けのフォークやナイフ等の器具は使わず、手で掴み、ほおばる。
そのせいで、口の周りは汚れていた。

部屋の中には、幾種類もの甘い匂いが混ざり合い、独特の空気を作り出している。

勢いは止まらない。
かれこれ二時間は、食べ続けている。
目がないので表情はよくわからないが、苦しんでいるようにも見える。

彼の腹は、大きく膨れ上がり、そのシルエットは妊婦を想像させる。


__________こんなに食べていいんだろうか?


__________幸せだ。


彼は一心不乱に食べ続ける、先程よりも腹は大きく膨らみ続けていた。

もう何時間食べ続けているだろう?
もう何kg以上食べただろう?

彼は、どこからか、視線を感じていた。

彼はさらに食べ続ける。
手は休むことを知らない。

限界がきたのか、彼は口に、クレープをくわえたまま
勢いよく前のめりに、倒れた。
顔面が、机で強打され、くわえていたクレープのホイップクリームが
顔全体に、飛び散る。

胃が敗れたのだろう、彼はそのまま動かなかった。


ゆっくりと足音が近づいてくる。
割腹のいい女性が、彼の倒れている椅子の前で立ち止まった。
その手には、オーストリッチの財布が握られていた。

女性は、財布から何枚かのお札を取り出し、言った。
「いつもありがとうございます。糖尿の私の変わりに食べていただいて。
あの食べっぷりを見てると、心が晴れますわ」


その言葉を聞くなり、彼は苦しそうに立ち上がり、お礼を言った。

「相変わらずとてもおいしくいただきました。料理お上手ですね
でも、いいんですか?こんなにおいしい思いをさせていただいた上に
お金まで。いい逝き方でしたか?」

「それはもう。いつもありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ」

彼はお金を受け取り、腹を押さえ、玄関のドアを開けた。

「奥さん、痩せました?」

女性は少し照れたように笑った。
その笑顔を後にし、腹をさすりながら、自宅へと向かう。


__________明日は、胃もたれだな。


彼は顔面についたホイップクリームを指で拭うと
それを、口へと運んだ。



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