03



鈍い音を立て、ギヤがニュートラルからドライブに変わる。
その車は、突然動き出した。

運転席には、シートベルトをしたDEADMANが座っている。
突然発進した車の重力のせいで、首がシートにぶつかる。
あまりのことに声を出すこともままならない。


速度は加速し、スピードメーターの針は上昇を続けている。
彼はアクセルに触りもしてないのに。
速度はすでに80kmを超えている。

__________何kmくらいまでいくんだろう?
__________ベルト、食い込んで気持ちいいな。



壁が、迫ってくる。
ゆっくりとではない。
速度はもう出せる速度の限界点を指している。

ふと助手席を見ると何者かが座っている気配がする。
呼吸音は聞こえない。そして、心臓の鼓動も。

__________死んでいるのか?


風の音から察するに、助手席のドアは壊されている。

__________ここから逃げ出すか?
__________いや・・・


壁が迫ってくる。その距離はもう、5mを切った。

彼の鼓動は高鳴る。
それが期待なのか、不安なのかはわからない。

壁が眼前に迫り、そしてぶつかる。
一瞬時が止まったかのような錯覚。
そして、激しい衝撃と破壊音。

激しい衝突音のと同時にエアバックが開いた。
エアバックが胸部と顔面に当たる。
これがあの素材なのかと思うくらいエアバックは固く、そして痛い。
衝撃の大半は吸収されているだろうが、衝撃の波動は
顔から首へと移行する。

エアバックに弾かれ、シートに後頭部をぶつけ、またエアバックに弾かれ、
首を痛め、胸部を痛め、腰を痛める。
そして、彼はエアバックへと倒れこんだ。



エアバックへと倒れこんでいる彼のもとに、スーツを着た男が数人と、作業着を来た男が
ゆっくりと近づいてくる。

「申し訳ありませんね。こんなこと頼んでしまって」

「いいえ、少しケースは違いますが、逝くのは楽しいものですから」

「ありがとうございます。これでより人間に近いケースの事故の結果が分かります」

「お役に立てましたか?自動車メーカーも大変ですね。
それと、エアバックって結構痛いんですね」

「大丈夫ですか?次の事故衝撃検査はエアバック無し、シートベルトは
つけずになんですけど、お願いできますか?」

「エアバック無しはやっぱり厳しいですよ」

「やめておきます?」

「いいえ、是非」

続けて彼が言う。
「ただ、少し時間をくれますか?すぐに体を治しますから」

彼は折れたであろう肋骨を摩りながら、にっこりと笑った。



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