05



男はトラックを運転していた。男はニヤニヤと笑っている。
荷物を無事に運び終えた安心からか、それとも疲れのせいか、少しだけ
気が抜けていたのかもしれない。
安全運転がモットーの運送会社に勤務する男だったが、その男は携帯電話のメールに
夢中でろくに前を見ていなかった。

【なぁ、久しぶりなんだからいいだろ?俺の熱いモノがマグマのようなお】
そこで、携帯の画面から目を離し、前を一瞬だけ見る。

目の前に、白いモノが見えた。

突然のことで、頭が真っ白になる。
考えることができない。男は反射的に、右足でブレーキを踏んだ。
ブレーキを踏むのが、遅れた。
車体に鈍い衝撃を感じた。

撥ねた。撥ねてしまった。

男はあたりを見渡す。飛び込んできたものは赤。

信号は、赤だった。そして、窓ガラスについた血の色も。
男は逆に青ざめていた。悪い条件が重なりすぎていた。
停止線も、ゆうに越していた。


「大丈夫か、おい、大丈夫か!」
男はドアを開け、勢いよく飛び降りると、白いものに駆け寄った。

__________何、この白い生き物。

白い彼は、頭から血を流していた。
腕はあらぬ方向に曲がり、足はタイヤにつぶされ、半ば千切れかかっている。
そしてピクリとも動かない。

ただ、顔は笑顔だ。


男は、救急車を呼ぶ為に、携帯を取りに車へと向かおうとした。
すると、足を捕まえた。

「いや、驚かされましたよ。勉強になりました。」

男は何も言えない。

「でも、うちは自殺代行がメインなので、次からは気をつけてくださいね」

男は、何が起こったのかわからないといった表情で、ただ、呆然と立ち尽くしていた。


「普通の人撥ねたら捕まりますよ。気をつけてくださいね」
「救急車を・・・」
「いや、いいんです。今日はもう一件、逝く用事がありますから」

そして、男が呆気に取られている間に、彼は立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
曲がった手、千切れそうな足、そして、笑顔で。



BACK


TOP
BBS