09



空から大粒の雨が降り、雷雲が雷鳴を響かせる。
穏やかな波も荒れ狂い、高波がうねる。
本来なら美しいこのビーチの海面も灰色に曇っていた。

そんな状況の中、そのビーチの波打ち際に
雨に濡れて立っている者がいた。
色は、白い。

大きな金属のサーフボードは、砂に突き立てられて埋まっている。
DEADMANはそれを抱えるように持ち、この豪雨の中
ただ一人立ち尽くしていた。


__________ほんとに落ちるのか


彼がここにいるのには理由がある。
もちろん、依頼だ。

電話のベルが鳴り、彼はヨダレをこぼしそうになりながら
受話器をとった。何しろ3日振りだ。
ちなみに、3日前の電話は、絵画の勧誘だった。

「売らないと、私、死んじゃうんです」

その言葉に乗せられ、会場まで出向き、絵画を買ってしまいそうになったが
ローンを組むことが出来ず、

「やっぱりいいです。今日はありがとうございました。」

そう言われ、逆に追い返され、周りから、白けた目で見られたあの日。


受話器から、やや甲高い男の声が聞こえる。

「もしもしー」
「はい、DEADMANです」
「あ、代わりに死んでくれるって、ココ?」
「はい、そうです。自殺代行ですけど」
「なんか面白いことなくて絶望してるっていうかか暇。みたいな」
「それは、お困りですね」
「で、生きるのも面倒で、死にたいなーなんて」
「なるほど。画期的な理由ですね」
「で、死ぬなら、俺、雷にうたれてみたかったんだよね」
「雷ですか・・・」
「ピカー、ドガー、バシィィィッって」
「ピカー、ドガーですね?」
「で、バシィィィッ」
「あ、すみません。でも、難しくないですか?」
「大丈夫だよ。いい場所知ってるから」
「わかりました。それでは、天候が悪くなったら決行ということで」
「よろしくー」


彼がこの豪雨の中、立ち続けて1時間もたった頃
彼の立つ少し遠くの海面に雷が落ちた。
全身が一瞬で痺れる。何か突き抜ける感触。
彼は、息をすることが出来ず、そのまま、倒れた。
そして、彼は、ゆっくりと海面を漂い、砂浜に打ち上げられた。

遠くで茶色の髪をした男が笑っていた。
1人ではなく、大勢の仲間と一緒に。

それを見た彼は、依頼が達成されたことに満足感を抱いた。
そして、少しの疑問も。



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