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Story.




自分を変えたい。
嘘や欺瞞ではなく、彼はそう思った。

話すことが苦手で、いつも無口だった。
そして、いつだって逃げてばかりだった。
誰かの陰に隠れ、身を寄せコソコソと、生きていた。
次第に、仲間は彼に愛想を尽かし、彼から離れ、去っていった。

仲間が離れていった理由は彼にもよくわかっている。
だが、その理由がわかっていても、彼は自分から動こうとはしなかった。
正確には、動けなかった。
何をすればいいのか、わからなかった。

ただ闇雲に、時間だけが過ぎていった。


目的が、欲しい。
自分自身を変えるための理由も。

彼はずっと考えていた。自分には、何ができるのか。

そんな中、歩いていると、一枚の張り紙が目に飛び込んできた。
家政婦募集の張り紙だ。
いろいろな張り紙がある中、際立って目立つものではない。
ただ、誰かのために働きませんか?という、一文に目が釘付けになった。

自分は、誰かのために何かをしたことがあっただろうか?

しばらく悩んだ末、その日彼は、その張り紙を出していた
家政婦協会に登録した。
自分自身を変えることができるかもしれない。
そう考えた結果だった。
もしかしたら、誰かと関わっていたかったのかもしれない。

登録して、何日か経ち、彼の自宅に一本の電話がかかった。

「家政婦を雇いたいと言っている方がいる。
条件を照合したところ、あなたにぴったりだと思うから」

彼は期待に胸を膨らませた。
いよいよ初仕事だ。

彼、マーティ・マーモットは、鼻息荒く、やや興奮した様子で
自宅を後に、雇い主が待つ家へと向かった。

誰か救うことは、自分を救うこと。
そう信じて。




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