Short Story…





Short Story No 05
願望




「願いを叶えてやる」

どこからともなく、声が聞こえた。
スーツ姿の男は、歩みをやめ、振り返る。
周りには誰もいない。

何かの冗談だろう。
そう思い、彼は歩き出した。

「願いを叶えてやる」

また、声が聞こえた。今度は、はっきりと。
周りにはやはり誰もいない。
どうやら彼の頭の中から聞こえてくるらしかった。
馬鹿馬鹿しい。
彼は更に歩き続けた。

「願いを叶えてやる」

また声が聞こえた。前よりも大きな声で。
男は無視することにした。だまされるのが嫌いだからかもしれない。

しかし声はやむことなく、何度も聞こえる。
そして声は、次第に大きくなり、反響していく。

正直うんざりだった。
こんな馬鹿馬鹿しいやり取りに付き合ってる暇なんてない。
相手にしない姿勢を貫いてきたが、もう限界だった。立ち止まると

「うるさいなぁ、願い?じゃな金だ、金。金出せよ。それとうるさいから
二度と声かけるんじゃねぇ」

男は大声で叫んだ。周りに人がいたら変人だと思われるに違いない。
男は息を整え、再び歩き出した。

「わかった」

声が聞こえ、そして聞こえなくなった。

しばらく歩いていると、男は、千円札を見つけた。
あの声は何だったのか?
男はそんなこと考えず落ちている千円札を拾い、ポケットにしまいこんだ。




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