Short Story…





Short Story No 07





夢を見ていた。
何気ない夢。

夢は幾通りもあり、たまに、これは夢だなと確信できるものもある。
俺が見た夢もそんなものだ。

視界がぼやけ、炎が揺らめくように世界が蠢いている。
場所は自分のマンションのすぐ近く。辺りは割と暗く、遠くのコンビニの
明かりがうっすらと輝いている程度だ。

俺はパジャマを着ている。
ポケットには何やら硬い物の感触。
取り出してみるとカッターナイフだった。
別に驚くようなことじゃない。
いつも持ち歩いている物だから。

夢ってのはいい。何をしても誰に文句を言われることもない。
最近は頭にくる出来事が多すぎる。

俺は騒音が嫌いだ。
クラクションの音や、車のエンジン音、インターフォンの音、他人の携帯の着メロ
近所の夫婦喧嘩の声、下品な喘ぐ声、遠くで聞こえるピアノ、子供の泣き声、電車の音。
これらに限らず、うるさいものが嫌いだ。

俺は家にいる時は、いつも耳栓をしている。
もしくはヘッドフォンをかけ、クラシックを聴いている。

視界はぼやけていたが、音は鮮明に聞こえていた。
合コンでもしているのかうるさい騒ぎ声、下品な会話、手を叩く音。
何で誰も注意しないんだろうか?
いい加減うんざりする。

うるさい。うるさくて仕方ない。
何で夢でまで、こんな嫌な思いをしなきゃいけないんだ。

声の発信元なんてすぐわかる。
それほど声が大きいからだ。
俺はぼやけた視界のままゆっくりと階段を上がっていく。

二階。違うここじゃない。
三階。ここでもない。
四階。だんだんと近くなるのがわかる。
五階。ここだ。

俺は息を潜め、五階を一部屋ずつ耳を傾け探索していく。
やっと特定できた。五階の三号室。

怖い物なんてない。うるさい奴なんて皆死ねばいいんだ。

俺はインターフォンを押した。誰も出てくる気配も無い。
何度もインターフォンを鳴らすが、それでも誰も出てこなかった。
俺はしつこく何度も何度も押し続けた。

耐え切れなくなったんだろう。
頭の悪そうな男が顔を出したが、ぼやけてよくわからない。
何やら俺に対し文句を言ってるみたいだ。
俺はその男に対し怒鳴った。自分でもなんて言っているかよくわからない。
続けざまに、よくわからない言葉で文句を、罵声を浴びせ続けた。

その途端、その男に蹴られた。
俺は壁に頭を打ち付けた。

痛みは無い。感覚も。

俺は起き上がり、その男を全力で殴ってやった。
殴った感触が無いのが残念だ。
男が部屋の中に向かい何やら叫ぶ。すると部屋から二人の男が顔を出した。
何やら俺に対し叫びまくっている。相変わらず視界はぼやけたままで
相手の顔を認識することもできない。

今度は殴られた。
痛みはやはり、無い。

何だか相手もするのも面倒になってきた。
俺は、ポケットからカッターナイフを取り出すと、何も言わず切りつけた。
視界がぼけているせいで誰を切ったのか、どこを切りつけたのかもわからない。
切られた男は一瞬呆然としていたが手を押さえ蹲る。

鮮血。
顔に、返り血を少し浴びた。

あとの二人は驚いた顔で、切られた男をすばやく部屋に押し込みドアを閉めた。
俺はインターフォンを鳴らす。しかし誰かが出てくる気配はない。

まぁいい。俺は階段を上り、部屋に戻った。
ベットに横たわり……

そこで目が覚めた。
結構眠ったはずなのに、全然眠った気がしない。
顔でも洗おうとバスルームに入る。

鏡を見る。
俺の顔には血がついていた。

夢だよな

俺は、顔を洗った。




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