Short Story…





Short Story No 12
正夢



もし自分が今日死ぬとしたら、何をするだろう?
これはとても難しい質問に違いない。
何しろたった24時間しかないのだから。

夢を見たんだ。
とてもリアルな夢を。

それは夜だった。
夢の中で、俺は倒れていた。
口から血を吐いて、いる。
通行人が何事かと、俺に駆け寄る。若い男だった。

俺は、息をするのも困難で、声を発することさえできなかった。
通行人の声が、少しずつ遠くなり消えていく。
すっと意識が途切れるのが、自分でもよくわかる。
その瞬間、目が覚めた。
そして、聞こえた。

お前は31日、死ぬ。
声が、聞こえた。

胸が、痛む。

怖くなった。もしかしたらと思う。
あの夢は正夢かもしれない。
今日は31日。
だとしたら、俺は今日死ぬんだろうか?

急に怖くなり、俺は病院に行くことに決めた。
今日は土曜日。近くに開いてる病院はない。

気のせいか、さっきよりも胸の苦しさを感じる。

急いで車に乗り、開いている病院を探した。
病院はすぐに見つかった。
受付で自分の症状を簡単に話し、待合室でしばらく待った。
病院は混み合い、自分の名前を呼ばれるのに
40分もかかった。1分1秒惜しいというのに。
レントゲン室に通され、レントゲンを撮り、また待合椅子のソファーに座り、待った。
名前を呼ばれ、診察室に通される。
医者はレントゲンを見ると、少し渋い顔をし、
肺に影があることを俺に告げた。

「再検査が必要ですね」

その言葉を聞いた時、目の前が真っ暗になった気がした。
ひどく、胸が痛む。

診察代を払い、処方箋を貰う。
2日後に再検査?
それに何の意味がある、俺は今日死ぬかもしれないというのに。

怖かった。
ただ、怖かった。

有り金のほとんどをATMで引き落とした。
その恐怖を払拭するかのように金を使った。
死ぬかもしれない。その恐怖は消えない。

前から欲しかった物を片っ端から買った。
前から行ってみたかった物を食べ、吐き、そして食べた。
酒を飲み、チップをばら撒いてやった。
それでも恐怖は消えない。
それならと、一度してみたかったことを、できる限りやってやる。

・・・・・・・

金なんてあっという間に消えていく。
何年もかけて、貯めた金だったのに。
それでも、使わずに死ぬよりはましだろう。

最後に入った店を出た時には陽は落ち、辺りは暗くなっていた。
酔っていたせいか、自分がどこにいるかもよくわからなかった。
だが、そんなことを気にしていたら、恐怖なんて消えない。
それでも、この風景に何か引っかかるものがあった。
それがわからず、少しよろけながら俺は歩く。

ふらついてたせいか、前から歩いてきたスーツの男と肩がぶつかる。
男はすまなそうに一礼し、そのまま進んでいく。

そして思い出した。
アイツは夢で見た男だ。

俺は自分の迂闊さを恥じた。
なぜ、こんなところに来てしまったのか?
なぜ、家でじっとしていなかったのか?

胸が痛む。

俺は少しでも早くこの場を立ち去るために走った。
だが、足がもつれる。
急いだのが裏目に出たのか、俺は派手に転んだ。
顔面を打ちつけ、唇からは血が流れている。
なんだかもう、どうでもいい。
もう、眠りたい気分だった。
誰かの声が聞こえるが、その声は遠くで叫んでいる声のように聞こえ消えていく。

目が覚めた。どのくらい時間が経ったのかはわからない。
どうやらここはベットの上らしい。
白いカーテンは開けられ、朝日が、とても眩しかった。

俺は、生きてた。
頭がズキズキと痛む。きっと二日酔いだろう。
気分は最悪だったが、胸の痛みは消えていた。
俺は、倒れた後、気を失い病院に運ばれたらしい
だが、たいした怪我じゃないらしい。運ばれたのは奇しくも今朝行った病院だった。
打った場所が場所だけに様子見として、一日入院することになった。
暇だった俺は、病院内を徘徊して回った。
何しろ、暇だったから。

徘徊にも飽き、待合室で見つけた雑誌を読みふける、
日頃読まない、新聞の一面記事にも目を向けてみる。
そして、自分の勘違いに気付いた。

今日が31日だ。

あの時の夢は、あれで終わりじゃなかったのかもしれない。
また、胸が痛み始めた。
強く、強く。
息をするのも、苦しいくらいに。




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