Short Story…





Short Story No 19
騒音



その男は音に対して敏感だった。
むしろ神経質だと言っても過言ではない。
マンションの自室、暗闇の中、男は、目をつぶった。
隣の部屋から笑い声が聞こえる。
雨が降ったせいで部屋は蒸し暑かったが、男は全ての窓を閉め、
その笑い声を遮ると、またベットに横になった。

それでも笑い声は聞こえてくる。
男は眠れない。

しばらく我慢した後、男は立ち上がり部屋を出る。
その表情は怒りで歪んで見える。
意を決した男は隣の部屋の前で、深呼吸すると
ドアを何度も蹴り始めた。金属製のドアが激しい音をたて、揺れる。
男は何度もドアを蹴った。

男は自分の部屋に戻る。
隣からの笑い声は、消えていた。

男はまた、目を閉じる。
しかし、男は眠れない。

また音が聞こえる。
今度はどこかから、音楽が聞こえてきた。
我慢していたが、その音がやむことはない。
男は、何やら言葉を吐き捨て、また部屋を出た。

一階ずつ、音の出所を探す。
そして、4階でその音の出所を見つけた。
男はまた、ドアを何度も蹴り始めた。金属製のドアが先ほどよりも
激しい音をたて、揺れる。男は何度もドアを蹴った。


男は自分の部屋に戻る。
音楽は、もう聞こえない。
だが、今度は下手糞なサックスとベースの音が聞こえてきた。
ベースのほうはアンプを繋げているらしく特有の重低音が響く。
男は怒りをあらわにし、また部屋を出る。
その手には金槌が握られていた。
また音の出所を探し、その部屋のドアを金槌で叩く。
ドアが壊れんばかりの音を立てる。
男は何か叫びながら、ドアを叩き続けた。

その後も、ペットの鳴き声、TVの音、掃除機の音、振動音などのたびに
男は部屋を出て、ドアを叩いた。

静かな環境を手に入れた男は今、自室のベットで横になって眠っている。
今はとても快適だ。男は笑顔で、寝息をたてている。

音は聞こえない。
もう、自分の声だって、聞こえない。




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