Short Story…





Short Story No 38
五十四日



若い夫婦がいた。
二人には子供がいない。
そのかわりに、一匹の猫を飼っていた。

その猫は、一歳にもならないうちに病気にかかった。
FPL。珍しい病気ではない。正式には、猫汎白血球減少症。
猫の伝染病の中で最も感染率が高く、死亡率が高い病気のうちの一つ。

二人は嘆き、何度も動物病院に足を運んだ。
その猫は、高熱が続き、餌も殆ど食べなくなった。
喉が渇いているのに水を飲まなくなった。
嘔吐、腹痛、下痢、脱水症状。
見るに耐えれなかった。

体は痩せ細り、毛が抜けていく。
そして、眠ることが多くなった。

約二ヶ月、正確には、五十四日間苦しみ。
その猫は、死んだ。

一日で死んでしまう可能性もあった。
そう獣医に聞かされていた。
そう考えれば、長く生きてくれたのかもしれない。
苦しむ姿を見るのは辛かった。
それでも、もっと生きていて欲しかった。

そう思うのは二人のエゴだろうか?

二人は泣いている。

仕事にも行かず、ただ無気力になり、悲しみにくれている。
何をするにも気力が出ず、ずっとため息をつき、
その猫のことを思い出しては、また涙を流す。

息子が死んだ時ですら流さなかった涙を。




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