Short Story…





Short Story No 43




駅のホームで、男は、電車を待っている。
朝でもなく、昼でもないこの時間帯は、利用客もまばらで少ない。
男は携帯を片手に、何やらボタンを押している。

「  ゎ 」

その声と同時に、後ろから、誰かに押された。
男は、体勢を崩し、転びそうになる。
さほど強い力でなかったのが幸いした。
男は、右足を軸に踏ん張り、左足を地面に前に突き出すことで、
体勢を立て直すことができた。


冗談が嫌いな男は、眉間に皴を寄せ、不機嫌そうに
後ろにいる相手を睨みつけた。

男の後ろには、見知った友人の顔がそこにあった。
友人は、屈託の無い表情で笑っていた。
友人はケラケラと楽しそうに笑い、男に話しかける。

「驚いたか?」
「ふざけるなよ、普通、驚くって」
「いや、横見たら、ちょっと遠くにお前がいてさ、呼んでもこっち見ないし」
「くだらねぇ、絶対今度、同じことしてやるからな」
「あんまりむきになるなよ、飯でも食べに行こうぜ」
「おごりで?」
「まさか」

一年後、約束通り男は、その友人に同じ事をした。
場所は同じ。
違うのは、全力で、電車めがけて。
場所は同じ。
違うのは、殺意があったこと。

場所は同じ。
違うのは、もう友達同士ではなかったということ。




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