Short Story…





Short Story No 45
死の四重奏



今日、祖父を病院に連れて行った。
祖父は今、何歳になったのだろう?

すでに齢八十は過ぎているはずだ。
祖父は以前は肥満体だったが、
今では体は痩せ、俺の半分程度の体重しかない。
診察カードを受付に通し、祖父と同じ待合室の長椅子に座る。
朝早く、診察が始まる前に着いたつもりだったが、総合病院ということもあり、
院内には、多くの患者で溢れていた。

TVの音や、周りの話し声、咳等の声を聞きながら、ただじっと座っていた。
俺は、無理にでも笑顔を作り、祖父に話しかける。
祖父は以前、舌の手術をし、言葉をうまく話すことが出来ない。
耳を澄まし、祖父の言動を、意思を聞き逃さないよう心がける。
会話は、今朝のニュースのこと、今日の診察のことだった。

しばらくし、祖父が名前を呼ばれ、腰を上げた。
今日は血液検査の日だ。
毎回のことだが、随分と時間がかかる。
朝食も抜きだから、遅く起きたとはいえ、きっと空腹だろう。
祖父は、痩せた体でゆっくりと前にすすみ、血圧を計り、その後体重計に乗った。
看護士は、それを逐一チェックし、その数値を、カルテらしき何かに書き込む。
そして、祖父を座らせ、注射器で血液を採取しようとする。

俺は、血が、苦手だ。
また、採血には少し時間がかかる。
俺は新聞でも読もうと、院内を少し歩いた。
新聞や雑誌がある場所は知っている。
何度も、ここに来たから。
以前、祖父はこの病院に入院していたこともある。

視界に、偶然、ポスターが映る。



その言葉のインパクトの強さに目を引かれた。
ポスターのタイトルは、死の四重奏。
そう書かれていた。

新聞を探す足を止め、そのポスターに目を通した。


生活習慣病の中でも、特に「肥満」「高血圧」「高脂血」「糖尿病」は
『死の四重奏』と呼ばれている。それは、これらの病気が互いに合併しやすく、
しかも合併することでより加速度的に動脈硬化や心筋梗塞などを、
引き起こしかねないからである。
また、これらの病気は「サイレントキラー」とも呼ばれ、自覚症状がないまま、
密かに病状が進行し、心疾患や脳血管疾患などの、
重大な病気を引き起こしてしまう可能性大。
そうならないためにも、生活習慣病の初期症状とも言える、
『死の四重奏』を奏でないようにすることが肝心なのである。


ポスターに書かれてある文章を読み終え、採血されている祖父のことを考える。

きっと、大丈夫だろう。
きっと、大丈夫なはずだ。

それでも、俺の胸は、辛く、心は苦しい。
俺はその、死の四重奏、全てに当てはまっていたから。




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