Short Story…





Short Story No 62
寝息



彼は浮気をしている。
普段の態度から、そう思った。
違うかもしれない。私の勘違いかもしれない。
そうだったらどんなにいいだろうと思うけど
多分間違いない。

問い詰めたい気持ちはあるけど、
肯定されたら、突き放されたらどうしよう。
そう思うと、彼には聞けない。

それでも、気になる。

彼の態度は、いつだって少し冷たい。
でも、最近は、特に冷たいような気がする。
だけど、それだけじゃ証拠にはならない。

彼はスケジュールや日記をつけない人だ。
もしつけていたとしても、こっそり覗くのは難しいと思う。
彼は、うちに来る時は、荷物をほとんど持ってこないから。
パソコンも持ってないし、残るは携帯だけ。
だから、携帯を調べようと思った。

彼の携帯は、少し前の機種。
防水加工が自慢の携帯。
それをいいことに、彼はお風呂に入る時も携帯を持っていく。
変わった人だと思うけど、ずっとそうだった。

チャンスは彼が眠った時だけ。
そのチャンスは、すぐにやってきた。

今、彼は眠っている。
すやすやと寝息を立てて。

今しかないと思った。

見つかったらなんて、考えない。
途中で彼が起きたら、中止にしよう。
そう決めた。

きっと、何とかなる。

私は自分にそう言い聞かせる。
私は寝た振りをして、寝返りをうつように、寝ている彼に寄りかかる。
そして、彼の枕の下にある携帯に手を伸ばした。
彼は気付かない。

携帯を手に、私は足音を忍ばせ隣の部屋に入る。
もちろん電気はつけない。
彼が起きたら、元も子もないから。
携帯を開くと、青白い光が、目に飛び込んできた。
反射的に彼のいる隣の部屋に視線を移す。
隣に光が漏れてないみたいだ。、
私は、少し安心して、受信メール一覧を見入る。

知らない女の名前。
やっぱりだ。
これ以上見るべきだろうか?それともやめるべきだろうか。
見たい。でも、見たくない。
でも、悩んでいたら、彼が起きてしまう。
私は、意を決して、一番新しい受信メールを覗いた。

{そうだよね。ごめん。それじゃ友達でいてね}

意味がわからなかった。
次に新しいメールを覗く。

{ね、付き合っちゃおっか?}

私は少し首を傾げる。
そして理解した。彼はこの子を振ったのだと。

でも、彼は何てメールを送ったんだろう?
受信メール画面から、送信済メールの画面に移動する。

「ゴメンな、言えなかったけど、俺、アイコって彼女がいるんだ。
そいつの事、本気で好きだから、やっぱり付き合えない」

彼は、この子と浮気しなかったんだろうし、
きっと、ギリギリの所で踏みとどまったんだろう。

でも、許せなかった。
殺してやりたいと思った。
私は、アイコなんて名前じゃないから。

今、彼は眠っている。
すやすやと寝息を立てて。



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