Short Story…





Short Story No 67
復讐



目の前に男が倒れている。
俺は、その男の腹をおもいきり蹴りつけた。

俺の手には泥が付いた木製のバット。
俺が蹴りつけた男は、胃液を吐き出し、のたうちまわっている。

この男は、詐欺師だ。
俺の妹を殺した、詐欺師だ。

殺したと言えば語弊があるかもしれない。
正確に言えば、殺してはいない。

ただ、死に追いやったのは、事実だ。

俺の妹は、丸顔だった。
父親似で、一般的に見ても美人とはいえなかっただろう。
目は一重、視力が悪くて眼鏡をかけてた。コンタクトを薦めたが
苦手だからと断られた。
もしコンタクトにしていたら別の結末になっただろうか?
少し太っていて、体重を気にしていた。別に平均だろと言っても聞かなかった。
いつも、悩んでたような気がする。きっとコンプレックスだったんだな。
恋愛経験は少なかっただろう。あっさりこの男に騙されたのもわかる気もする。
この男に騙され、入れあげ、金を絞られ、孕まされ、捨てられ、死んだ。

真面目な妹が作った借金。
その膨大な額は、妹の保険金から金融屋へと、勝手に支払われた。

誰かが馬鹿にしても、どんなに笑われたとしても、
俺にとっては、たった一人の可愛い妹だった。

俺は妹が自殺したと聞いた時、冗談だろうと思った。
たちの悪い冗談なんだと。
だが現実だった。最悪の現実だった。

死後見つかった、妹の日記には長い遺書が書かれ、最後の文は、


馬鹿な人間で本当にごめんなさい。さようなら。


そう綴られていた。
滲んだ文字を見れば、妹は泣いたのだと思う。
悔しくて、苦しくて、己を恥じて、絶望した。

お前は、馬鹿じゃないと言ってやりたかった。
お前は、俺の自慢の妹だと、言ってやりたかった。
俺は兄貴らしいことなんて、殆どしたことがない。

今思えば、最後の電話は涙をこらえていたような気もする。
どうして気づいてやれなかったのか。
どうして理解してやれなかったのか。

後悔しても、悔やみきれない。
事実を、知りたかった。妹が死んだ理由を。


そして、知った。


目の前に男が倒れている。
俺から逃れようと、必死で這い蹲り逃げようとしている。
俺はバットを、腰めがけ、叩きつけた。


1度

2度

3度

4度

5度


あとは、右手と左手。そして膝を叩き壊してやる。
起き上がることすら、出来ないようにしてやる。
這いつくばってろ。お前にはその方が似合いだ。

だけど、殺しはしない。それじゃ、意味がない。
生きるのが辛くなるようにしてやる。
そして、自殺したくなるようにしてやる。

お前が、妹にしたように。


それでもきっと、お前は死を選ばない。
それならそれで別に構わない。
死ぬことより、生きるの方が、ずっと辛いだろうから



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