Short Story…





Short Story No 68




一匹の蝿が飛んでいた。

妻と眠っていた男は、その羽音で目を覚ました。
目を覚ましたのは、羽音だけではなく、慣れない臭いのせいかもしれない。
男は一人、静かにベットから起き上がると、小さく舌打ちをする。

男は、ベットの横の眼鏡をかけると、部屋を見渡し、叩くものを探した。
だが、白に赤でペイントされた部屋には、蝿叩きは存在しない。
運良く、前日の新聞が男の目に留まる。
男はそれを丸めると、そっと蝿に近寄った。

蝿は天井に移動していた。
男は息を潜め、右手に力を込め、
蝿を叩くため、テーブルの上に乗り、天井を叩く。

男の気配を察知し、蝿は瞬時に飛び去った。
男は、蝿を追いかけ、新聞紙を振り回す。
何度も何度も何度も振り回し、ようやく、蝿を殺した。

男は、腕で額を拭う。

だが、すぐ、また羽音がした。
男の右耳のすぐ横を小さな蝿が飛び回る。
目を凝らすと、小さな小さな蝿が部屋に何匹も、飛び回っていた。
男は両手や新聞紙を振り回すが、標的が小さいせいか当たることはない。

業を煮やした男は一階へと走り、台所から
殺虫剤のスプレーを手にして、戻ってきた。

男は蝿たち睨み付けると、何事か呟き、
空中と、蝿の生息場所である妻の遺体に向け、殺虫剤を散布し始めた。



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