Short Story…





Short Story No 72
美容師



髪が、伸びていた。

ロングヘアといえば聞こえはいいが、単に切りに行く暇がなく
伸ばしっぱなしになっていただけ。
パーマもほとんどとれかけている。
スタイリング剤を使って、髪をセットするのも面倒だったから、
セットの必要の無いこの髪の長さは、そんなに不満じゃなかったけど、
いい加減伸びすぎだと感じてた。
この際、思い切り髪を切ろう。
そう思い立って、美容室へ行った。

ショートにするなんて、何年ぶりだろう。
よく通っていた美容室は休みで、別の店を探した。
この辺りは美容室が多く、代わりの店はすぐに見つかった。

元々、美容室は好きじゃない。
美容室の雰囲気にはいつだって慣れないから。
愛想笑いも好きじゃない。
当たり障りの無い会話や、つまらない質問にもうんざり。
きっと相手も同じ事を思ってるんじゃないかな。

置いてあるカタログの中からヘアスタイルを選び、
美容師に見せるのは、なんとなく気恥ずかしい。

あなたが、この髪型に?
あなたがこんな美人になれると思ってるの?

ただの被害妄想。
笑われたような方がまだましかもしれない。
客商売だから、接客も美容師の腕と言っても過言じゃない。
だけど、それ以上に、パーマやカットの腕は必要なんじゃないかな。

カットやパーマをかけてもらった後の、決まりきった言い訳は嫌い。
髪質が違いますので、
痛んでいますので、
癖があるみたいですので、
スタイリングをしないと、
もう少し、髪が伸びるといい感じに、
そんなのはもう、聞き飽きたし。

私は無口な美容師の人が好き。
だから最初はほとんど無口で、自分からは話しかけない。
察しのいい美容師は、そんな私を見て、
話をするのが嫌いな人だと気づき、無言で仕事をしてくれる。

だけど、この人は逆。

黙っている私に対して、色々な話題や質問をぶつける。
自分の体験談、失敗談を、喜々として話し続ける。
この人は、本当によく喋る人だ。
そして、察しが悪い。

どうして気づかないの?
お喋りに夢中で、私の耳を切ったことに。



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