Short Story…





Short Story No 75
自殺



始まりは一本の電話だった。

「嫌、何もかもが嫌なの。もう、学校になんて行きたくない」

少女は、震える声で、友人にそう漏らした。
二人は学校も、学年も、性別も違う。
だが、同じ悩みを抱えている。

「毎日毎日なんでこんな嫌な目に遭わなきゃいけないんだろうね、私は……」

悲しみが鬱積していたのか、苦悩は言葉に変わり、
その言葉は堰を切ったように、とめどなく紡ぎだされていく。
怒りは悲しみに、そして涙声に変わっていく。
最後に、消え入りそうな声で少女は言った。


「もう、死にたい。生きていたくない」


ずっと黙って女の子の愚意を聞いていた友人は、
少しため息を吐き、息を吸うと、自分も同じことを考えていたと答えた。
その言葉に嘘はない。少年も苦しんでいた。

その言葉を聞き、少女は言葉を詰まらせた。
幾秒かの空白の時間が流れる。
持っている携帯電話を強く握った音が、その静寂を破り、
ゆっくりと少女は口を開き、かすかな期待を込め、言った。


「一緒に、死のうか?」


友人は同意する。その答えは早かった。
ただ友人は一つの条件を出した。
その条件は、自分も友達を誘いたい。ということだった。
少女は快く快諾する。

それから二人は、しばらく話し続け、決行の場所と時間を決めた。
少女の希望で、場所は少女の通う学校の屋上になった。
彼女の通う学校は公立で、進入経路なんてどうにでもなる。

意見はまとまり、二人は安堵する。
もうすぐ自分で自分の命を捨てるというのに。

友人は思い立ったように、少女に告げる。
自分も早く友人に連絡したい。そして遺書の準備もしなければと。
少女は了解する。

二人は約束し、電話を切った。


そして、約束の時間。
ガラスの割れる音が響き、幾つかの駆ける靴の音が続いた。
靴の音は止まない。力強く無人の廊下に響き渡る。
そして、ドアの破られる音が続いた。

本人達にしか聞こえない鼓動。
息を呑む音。そして、別れの言葉。
三つの影が屋上から、地に落ちた。
力強い音を残した靴は、遺書と共に屋上に残された。


次の日、ニュースで、事件の報道がなされた。
いじめによる自殺か?事実をレポーターが、心理をコメンテーターが、
そして、心情をキャスターが語る。
相次ぐ模倣、止まない連鎖、解決の糸口は?
答えは出ないまま、番組は続いていく。

その放送を見て驚き、そして独り言を吐くように少女は呟く。

「うそ、あれ冗談だったのに……」

その冗談が、三人を、死に導き、
その冗談が、三人を、殺した。



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