Short Story…





Short Story No 110
足音



くぐもった物音が聞こえる。

最近、毎晩のように頭上から物音がする。
気にならないという人もいるかもしれないが、僕は気になって仕方がない。
頭上から物音が聞こえるのというのは、気持ちのいいものじゃない。

以前住んでいたマンションでもそうだった。
ドタドタと、鈍い音が毎晩のように聞こえ、
重低音の音楽が、頭上から聞こえる。

どこから発せられた音かもわからない話し声や笑い声。
挙句には、ペットの鳴き声にまで悩まされた。
音から逃れるために外出し、部屋に戻れば、騒音を音楽で紛らわせた。
喧騒の度に、管理会社に電話で相談する。
時には、警察を呼んだことすらあった。
だけど、現状は変わらなかった。

真上の階から下の階の住人、そして隣人。
顔すら知らない。
だけど、殺したくて仕方なかった。


ずっと我慢してきたが、もう限界だと感じ、
新しいマンションに移った。
それでも、音からは逃れられない。

前のマンションに比べれば、ここはまだ、良い方なのかも知れない。
別にステレオの音が聞こえるわけでもなければ、
話し声が聞こえることもない。
ただ、頭上から物音が聞こえるというだけ。

小さな悩みなんだろうか?
どこでも、同じなんだろうか?
僕は、苦痛だ。苦痛で仕方ない。

今も、聞こえる。
ここは最上階なのに、頭上からくぐもった音が聞こえる。



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