Short Story…





Short Story No 113
最初は



それは、ただの小さな悩みだった。

なんにでも病名がつき、障害と症候群が蔓延するこの世で、
健康な誰かは、自分の症状をいぶかしく思う。

自分の症状をキーワードに当てはめ、ネットで検索し、
出てきたページの1つ1つに目を通す。

ページには病気の種類。
そして、軽度の症状と重度の症状の明記。

自分の症状を重ね合わせ、過敏に反応し、
自分がその病気じゃないのかと思い込む。

思い込めば、後は坂から転げ落ちるように不安になり、
悩み、焦り、思い悩む。

その日から、毎日を苦痛に感じるようになり、
その症状を、その病気のせいだと思い込む。

そんな日が続き、自分が重度の症状だと勝手に決め付ける。

その誰かは、現状を打破しようと、
通院し、処方された薬を飲む。

薬があれば安心できた。
毎日を平穏に過ごすことができた。

そのうちに薬がなくなり、また通院する。
また、薬を飲み続ける。

病気でもないのに、薬を飲む。
毎日毎日、薬を飲む。
自分の症状が治ることを信じて。

その誰かの精神と身体は、少しずつ蝕まれていく。
そして、今ではもう、立派な患者になってしまった。

最初は、ただの小さな悩みだった。
小さな、悩みだった。



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