Short Story…





Short Story No 120
残酷



しつこい奴って、いるよな。
気持ち悪いくらい執念深くて、粘着な奴。

たちが悪いのは、自分がしつこいってわかってるのに、
何かしらの理由をつけ、正当化し、それを治さない奴。

それ以上にたちが悪いのが、
自分がしつこいってわかってない奴。

嫌いだって言われてるのに、執念深く張り付いて、
どうしたらまた振り向いてもらえるかなんて悩んだり、
無意味な作戦を立てたり、待ち伏せしたりする。

もう手の届かない相手だと理解しきれず、
微塵も残っていない、希望って幻想に身を投じ、
自分に酔い、ヒロインチックな妄想が叶うことを信じて疑わない。
相手に会えば、その幻想に近い妄想を、現実のものとするために、
何の価値もない、半分嘘で作られた涙を、化粧と共に垂れ流す。

頭の中はどうしたら同情を引けるか。いつまで泣けばいいか。
そして、ファンデーションを直したい。そんなとこ。

作戦が失敗に終われば、味方を求め、
誰彼構わず、グチグチグダグダと相談する。
相談に乗ってほしいわけでも、解決してほしいわけでもなく、
ただ聞かせたいだけ、自分の求めてる言葉を聞きたいだけ。

そのために、自分の身の上に起こった自業自得なる悲しい話を、
現実の何割増しかで誇張し伝え、
哀れな哀れな出来事の顛末を告げ、どうしたらいい?と、
涙ながらに繰り返し尋ねる。

可哀想って言われたい。
自分で自分の恥を晒してるってことにすら、
気付きもしない、そんな奴。

そんな哀れなそいつの話を、本当は聞きたくもないのに、
対面なら頷き、電話なら受話器を遠ざけ、聞いてるフリをする、誰か。
面倒だと思いつつも、己を親身に見せかけ、本心を隠し、
大丈夫?辛かったね。何かできることある?
なんて決まりきった言葉と嘘を並べる、誰か。

哀れなそいつに、偽りの希望を持たせようとするその誰かは、
きっと、自分じゃ気付いてないだけで、
とても残酷な奴なんだろうな。



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