Short Story…





Short Story No 122
才能無き者



僕には、何も無い。
何も、無いんだ。

もう疲れきって、何もしたくない。
何も考えたくない。
動くのも、起き上がるのさえも面倒で憂鬱。
目標も無ければ、生きたいとも思わない。

気がかりはただ、猫のことだけ。
いつも餌をあげているあの野良猫。
それだけが不憫でならない。

そんな僕に、友達は言う。

生きろだとか
死ぬのはもったいないとか。
甘えるなとか。

その言葉は、僕には残酷すぎやしないだろうか。

僕が、もう死にたいと、本音のような愚痴を告げると、
友達は、電話で僕を励ましてくれた。

「お前だってさ、夢とかあるだろ?したい事とかさ。
それに、目標とかあるだろ?
なりたいものとか、目指してるものとか。
その理想に向かって努力したらさ、毎日充実すると思うよ。
それにさ、やりたいこともやらずに死ぬのなんてもったいないって。
誰だって何か才能の一つや二つあるだろ?
何も無い奴なんていないって。
俺は喋るのが得意だったから、今は営業の仕事してるけど、
得意なのってくらいってだけだぜ?
でも将来はさ、この喋りを生かしたもっと大きな仕事とかしたいし、
きっとできるって思ってる。
今は辛いかもしれないけど、何か、楽しいこととか、
好きなものとか考えてさ、前向きに楽しくやろうぜ。」

ありがたい励ましの言葉だった。
それで、ようやくわかった。

ありがとう。
ありがとう。
教えてくれてありがとう。
僕に何も無いことを、改めて教えてくれてありがとう。

僕には、何も無い。
やっぱり、何も、無いんだ。

友達が言ってた夢も、目標も、充実感も、やりたいことも
楽しいことも、好きなものも。そして、才能も。
ようやく決心が、ついた。

きっと、友達にも会話の才能は、無いんじゃないかな。
ここまで打ちのめされるとは思わなかったから。



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