Short Story…





Short Story No 162
でも、



私は見た。
だからこの店に呼び出して詰め寄った。
認めたら別れようと思ってた。

「ねぇ、浮気してない?」
「え、急になに言言い出すんだよ?バカじゃないの」
「へぇ、私が何も知らないと思ってるの?」
「するわけないだろ。忙しいの知ってるじゃん」
「忙しい忙しいっていつもそう言ってるけど、私、見たんだよね」
「え、いつだよ?」
「今日、女の子と歩いてたでしょ?」
「あれ、仕事の同僚だから」
「へぇ、仕事関係の人なんだ。じゃ、電話してもいいよね?」
「いや、でも、番号知らないし」
「嘘でしょ?」
「いや、本当だって」
「じゃ、ケータイ貸して」
「なんで?」
「貸して」
「嫌だよ」
「貸しなさいよ、早く」

すばやく彼の手から携帯を奪った。
彼はもう諦めの表情。そしてため息。
もしこれが、どちらかの家だったなら取り合いになっていただろう。
私は座ったままケータイを開く。
真実を知りたかったから。

電話帳に登録されているのは、たった一件。
受信メールも送信メールも、発信も着信も全て同じ名前で埋め尽くされている。
私の名前、だけ。

この人には私しかいないんだ。この人には。
そう思うとすっと血の気がひいた。

認めたら別れようと思ってた。
でも、別の理由で別れたくなった。
でも、別れられるだろうか?



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