Short Story…




Short Story No 199
あだ名



男は腕時計を見る。
約束の時間はとっくに過ぎていた。
いつも待たされる。
いつもいつも待たされる。
男は、仕方の無いことだと自分に言い聞かせ、
胸のポケットから携帯を取り出す。

そのうち携帯をいじるのにも飽き、
暇潰しに、目の前を通り過ぎる人にあだ名をつけ、
小さな声でそのあだ名を呟く。

『債務者』
『売れない営業』
『鳥の巣』
『寒がり』
『ゾンビ顔』
『研究員』
『貯金マニア』
『ヴィトン』
『アーティスト気取り』
『詐欺師』
『愛玩動物』
『そのうち事故で死ぬ奴』
『アヒル口』

その呟きが聞こえたかどうか。
『そのうち事故で死ぬ奴』が男に近づき言った。

「ごめんね、お待たせ」

男は妻に向け笑顔を作る。
いつものように笑ってるフリをする。



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