Short Story…




Short Story No 206
人殺しの気持ち



人を殺すのなんて簡単だ。
武器を持てばいい。
拳銃なんて大げさなものはいらない。
台所にある包丁、それで十分だ。
武器を忍ばせ、恨みや憎しみなんかは笑顔で隠し、
平静を装い近づいて、
当たり前のように刺せばいい。
何度も何度も刺せばいい。
回数は、傷つけられた数でも、恨んだ数でも、
今日のラッキーナンバーでも何でもいい。

人を殺すのなんて簡単だ。

難しいのは捕まらないこと。
返り血や指紋に始まり、
携帯電話の通話記録やマンションの防犯カメラ。
痴情のもつれか怨恨か。
家族や友人への聞き込みに、近隣の目。
赤の他人ならまだしも、
俺は、殺したいほど憎んでいるわけだし、
きっと誰かの口から、俺の名前も候補にあがるだろう。

そう考えると、難しいように思える。
でも、やっぱり簡単だ。

別に、捕まってもいいと思ってるから。



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