Short Story…




Short Story No 236
小さな村


その家は小さな村の中にあった。
買い物をするのにも車が必要なそんな村の中に。
昭和初期に建てられた大きな屋敷。
庭は広く、小さな畑には野菜や色々なものが植えられている。
そこには男が一人で暮らしている。

両親が亡くなってからというもの、
近所付き合いも殆どなくなってしまった。
たまに郵便受けに会報が届けられる程度。
近所といっても随分と離れているから当然だろう。
会っても、特に話すこともない。

家の前には道路を隔てて小川が流れている。
綺麗な清流で大きな岩がが凛と聳え、時折山女も顔を出した。
夏になれば小さな子供がプール代わりに泳ぎ、
車をしばらく走らせれば小さいが滝も見ることができる。

その滝の近くにある農産物直売所がある。
廃校になった小学校の跡を利用し建設され、
新鮮な野菜や加工品や焼物が並び販売されている。
しかし今では随分とさびれ、訪れる客もいなくなってしまった。
車は、村を通り過ぎていく。

夜ともなれば車通りも殆どなくなり静かすぎるくらい。
その静かな夜に、小さな呻き声。
猿轡から漏れる少女のすすり泣く声。
大きな屋敷の中からそれは聞こえる。

その声には誰も気付かない。
いつも、誰も、気付かなかった。

その家は小さな村の中にあった。
昭和初期に建てられた大きな屋敷。
庭は広く、小さな畑には野菜や色々なものが植えられている。




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