Short Story…




Short Story No 288
あの人の病



あの人は病気だ。

いつだってどこそこが痛い、
どこそこの調子が悪いと不平を口にする。
別の誰かと会話をしていても、そう。
当然のように会話に割り込んで、自分の病気の症状を語る。

どこどこの病院に行った。
医療器具がどうの、もらった薬がどうの。
この薬は飲みにくい。
今回はこんなに薬をもらった。
効能が、副作用がと毎回そんな話。。
大変なの大変なのと、自分の不健康さを誇らしげに語り、
あたかもその症状を自慢しているような節がある。

些細な症状や少しの熱でも病院に行き、
体調不良を訴え、いちいち検査をしてもらう。

病気だと診断されたいのかもしれない。
そうすれば誰かが心配してくれるから。
誰かが心配してくれると信じているから。

またあの人が聞きなれない病名を口にする。
その症状と治療法、費用や薬の副作用を口にし、
嬉しそうに処方された薬の袋を開く。

あの人は病気だ。
病気になりたいのかもしれない。





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