Short Story…




Short Story No 290
被害妄想



その男の話題は、いつもつまらない心配事。
本当にくだらない心配事で、被害妄想もいいところ。

彼女が他の男に言い寄られているんじゃないか、
友人が陰で自分の悪口を言ってるんじゃないか、
男はそんなことをいつも心配し、あれこれと悩み、
その自分の悩みを近くにいる誰かに語る。

同情されたいのか、自分を卑下した自慢かはわからない。
ただ、男の話を聞く誰もが、それらの話が嘘だと知っている。

だから、運悪く聞き役となった者は、
男の話に適当に相槌を打ち、早めに会話を切り上げて自分の仕事に戻る。

本当に、くだらない妄想話だと男の話を聞いた誰もが思う。
男には、彼女はおろか友達の一人もいないのにと。

事実その通りで、男の周りには誰もいない。
ただ、そのありもしない話を真実だと本人は信じている。
真実だと信じてしまっている。

今日も、男は自分の悩みを語っている。
その顔は悲しげで、話の最中に浮かべる泣きそうな顔は、
少しだけ笑っているようにも見える。





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